![政治家は今こそ国家ビジョンの提言を[完全版]/](image/titleP.jpg)
五世代共生時代に向けての「新」日本型安心社会を実現する五つの提言
―市場経済はウィ、市場社会はノン―
平成21年7月
衆議院議員 松野 博一
我が国は、今や「超」高齢化社会を迎え、五世代が共生する人口構造となっている。社会の諸問題を解決し、各世代がそれぞれに社会参加しつつ、快適で安心感を持てる暮らしを実現し、これを基盤に経済を活性化し豊かで発展する国づくり、言わば社会全体の幸せを最大化できる国を目指して、新たな基軸に基づく国家運営方策を次のとおり提案したい。
市場原理による効率的な経済運営は優れた方式であるが、本来命を産み育てることが優先される社会制度に市場原理の効率性・経済性の追求を導入することは適当でなく、むしろ弊害として格差拡大、雇用不安等の問題を発生させる。
フランスの若い世代で、「市場経済はウィ(Oui)、市場社会はノン(Non)」と言われているように、経済運営は市場原理に基づくものの、社会システムは市場原理に拠らず非市場領域として捉え、人々が快適で安心感を持てるようにするとの考え方を導入すべきと考える。経済領域と社会(命を産み育てることが優先されるべき社会制度)の双方を一つの原理により運営するには無理があり、二つの原理の組合せによる国家運営方式が必要になったと考える。
社会保障は、制度創設以来、経済発展や国民生活の向上等にあわせて改善されてきたが、雇用の多様化、核家族化等の不可逆的な変化により、社会構造が大きく変化し、格差拡大等の社会問題の深刻化が急速に進んでいる。人々は、将来に対し大きな不安を抱き、現在の社会システムが危機的状況にあると感じている。従前の考え方では、現在の人々が望む快適で安心感のある暮らしが実現できなくなっている。 このため、社会保障については、新たな価値基準に合った目標に再設定し、その実現のための財源手当確保を含めた制度の検討を行うことが必要である。社会保障が目的とする内容や水準は、社会の変化に応じて再設定していくべきである。
従来日本社会を支えてきた、養老や介護、育児などを担っていた家庭内の無償労働(シャドウ・ワーク)や人々が互いに支えあっていた地域コミュニティーがここ十年、二十年の間に大きく変貌し、相互扶助の社会安定機能が衰退や弱体化したことや、企業において短期の経済性の追求が優先され、福利厚生や社内教育の縮小あるいは派遣労働者の増加等が進み、企業が担ってきた社会的機能が低下した。これらの変化は不可逆な現象であると認識し、変化に対応して如何に社会全体の安全装置を再構築・進化させ、「人々が安心感を持つことができるか」との立場から検討すべきである。
さらに、女性のシャドウ・ワークについても、そのビジネス化や公的支援のあり方を検討し、社会変化に応じた新たな形を創り出し、女性の社会参加の自由度を阻害する要因を取り除くことが必要である。
なお、シャドウ・ワークの社会化による保育や介護等のサービスの運用は、多様なニーズに対応する労働集約型サービス需要の拡大を生み、雇用効果の高い新たな成長産業としての社会参加応援型産業の活性化に繋がる。
社会が備えるべき機能として、欧州では、「生活保障」「介護・医療」「保育・教育」「就業支援」の四つのサービスへの「アクセス」の確保があげられているが、「新」日本型安心社会の構築に不可欠なものとして、「人々の絆」の強化を付け加えた社会制度を提案する。なお、「アクセス」は、ユニバーサルに、即ち「誰でも、いつでも、どこでも」確保できることが肝要であり、かつアクセスの確保は、現金給付でなく、できるだけサービス給付によるものとすべきである。また、かつて、福祉政策に重きをおいた国は経済活動が低下すると思われていたが、北欧等においては、高福祉であっても高成長を達成している例があることに留意すべきである。
雇用形態、職業、居住地等に関係なく提供される安心できる生活保障
具体的に第一は、人々が安心して暮らせるための最低限の生活保障セーフティーネットを整備し、暮らしの中で如何なる事態が発生しても生活の安全を保障することである。生活保障に関しては、いかなる雇用形態(正規労働者も派遣労働者も)、職業、居住地であっても、安心して子どもを産み育てられる環境を保障する給付水準とすべきである。
所得、居住地等に関係なく国民の誰もが利用できる介護や医療
第二は、医療や介護については、所得、居住地等に関係なく国民の誰もが利用できることである。医療については、国民皆保険制度がうまく機能していない部分が生じてきており、医師不足や無保険の子どもの増大等については、早急に解決を図る必要がある。介護では、質の問題に加え、介護対象者の急増への対応が至急必要である。最も重要なことは、医療や介護について、供給サイドの発想から転換し、患者や家族等の利用者の声を反映した医療や介護のあり方を再構築することである。
教育の家計負担軽減と機会均等の確保
第三は、人生のスタートラインを確保するため、教育の機会均等を確保することである。家庭の所得の差や家庭環境の違いが、子どもの進路の選択肢の幅を狭めるのみならず、子どもの将来へのあきらめや無力感に繋がり、「格差の再生産」となっている。また、家計において教育費を含む子育て費の負担は重く、子ども二人以上育て、高等教育まで受けさせることは難しくなっており、教育費の負担が少子化の要因との意識調査結果が出ている。「教育を受けた国民という人的資源」は、我が国のグローバル競争力の観点からも重要であり、幼児教育から高等教育までの家計負担を軽減する経済的支援をはじめ全ての子ども達が必要な教育を受けられる環境を作っていく必要性は極めて高い。
柔軟な労働市場と希望する職に就くための就業支援
第四は、柔軟な労働市場の確立と、人々の職業能力を高め、希望する職に就くために必要な知識や技術を身につける就業支援とそれまでの間の生活支援である。就業支援を考える際には、単に職に就けば良いと言うのではなく、本人の希望に沿って、働きがいのある職に就けるようにすることが重要である。今後の経済成長は、生産性の向上や産業の高付加価値化とともに、衰退産業分野から成長産業分野に限られた資源を如何に適確かつ円滑に移行できるかに大きく依存している。人的資源の移行、即ち雇用の調整は、その大きな柱である。知識基盤社会においては、産業構造の変化のサイクルが短くなっており、産業の高度化や国際競争力強化のため継続的に新たな知識やスキルを学ぶことが不可欠である。このため、生涯に亘る職業能力向上等のための学習支援は極めて重要である。産業構造の変化に伴う衰退産業分野からの失業者等への支援も、単に生活保障のための現金給付ではなく、就業し自らの力で生活ができるように支援するとの考え方に基づき、成長・高付加価値産業従事に向けた再教育・再訓練の実施が重要である。これにより、生活保障費の軽減効果は勿論のこと、経済活動の活性化にも繋がる。
「新」日本型の安心で住みやすい社会に不可欠な新しい相互扶助機能の再創造
第五は、前記の四機能と相まって、私達日本人にとって安心で住みやすい社会を取り戻すには「人々の絆」を強め、人々の支え合う機能の低下を補うことが不可欠である。現在の日本の国民が感じている不安感や不安定感を引き起こしている原因の一つが、この「絆」の喪失にある。人間社会には、物理的なサービスでは代替することができない領域がある。如何なる困難が発生しても救済してもらえるとの安心感があれば、人々が快適で安心感を持って暮らすことができる。家族の愛情や地域社会共同体の連帯意識のような人と人の支え合いが重要である。そうした支え合うという意識は、共同作業を通じて醸成されるものであり、「人々の絆」を再創造し易くする環境づくりをするため、祭りや運動会のような地域における自主的な取組みに対する公的な支援は、大きな役割を果たすと考える。
深刻な金融・経済危機の中、我が国では格差拡大等の社会問題が重要な課題となっている。歴史に学べば、「危機」は、国家運営の基軸の転換が必要とのメッセージと受け止めるべきである。本稿において、経済は市場原理に基づき効率化の改革を続行し、一方、社会(命を産み育てることが優先されるべき社会制度)は非市場領域として捉え、人々が安心感を持てることを最優先とした2つの軸を持つ価値観に立った国家運営に向けて舵を切ることを新たな選択肢として提案する。もちろん、提案の実現に向けての財源の手当については、あやふやにすることなく、誠実に示すことが政治の責任である。国民にとってより快適で安心感が高い生活を創造し活力のある日本社会を実現するため、今回提示したビジョンを踏まえ提供すべき社会サービスとして国民が何を求め、そのための具体的な手当についての議論を進めることが必要となってきた。今回提示しているビジョンについて国民負担を含めてコンセンサスを得る努力を始めたい。
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